第1章

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「アリア…?」 背を向けた女に男は問いかけるが、女は何も応えない。 “応えない” それが返事だと気が付いた男は叫ぶ。そして男は分かっていた。女が囮など出来る状態ではなく、捕虜になることは必須であり、その捕虜が凄惨な扱いを受けることを。 「アリアッ!!!」 叫んでも、叫んでも、こちらを見ようとはしない。 「魔法の展開をやめるんだ! 一緒に国境を越えられる!!アリアッ!!!!!」 男は魔法を幾つも展開し、幕を壊そうとするが、一向に消える気配はない。 「聞け!!!こっちを見るんだ!!!!」 ドンドンと幕を叩く手には、血が滲んでいる。 追手は、すぐそこまで迫ってきていた。 「アリアッ!聞いてくれっ!頼む!!」 長い銀の髪を揺らし、振り向いた女の目には涙が浮かんでいた。 「アリアッ…」 女は、薄く微笑みを浮かべ、言葉を紡ぎ始めた。 「エルフの女王、アリア・ヒューズが告ぐ…」 その言葉に男は青ざめる。捕虜になるなら、まだ、良かった。 「や…まさか…!!!」 男は祈るように、縋るように、幕を叩く。 「やめろ!!これは命令だっ!!!アリア!!!!」 女は目を瞑り、諸手を空へと掲げた。 「…我が身体に秘められし力よ、今こそ断罪の時! 葬られた魂に再生を、操られた者に道筋を。 愛しい人に、命の加護を――――――…」 その時、女の口が声を出さずに動いた。 愛しい人に向けられた、最期のメッセージ。 ほんの一瞬、時が止まり、残酷に再び、動き出す。 彼女は終わりを呟いた。 「王の裁判-ジャスティス オブ キング-」
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