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「アリア…?」
背を向けた女に男は問いかけるが、女は何も応えない。
“応えない”
それが返事だと気が付いた男は叫ぶ。そして男は分かっていた。女が囮など出来る状態ではなく、捕虜になることは必須であり、その捕虜が凄惨な扱いを受けることを。
「アリアッ!!!」
叫んでも、叫んでも、こちらを見ようとはしない。
「魔法の展開をやめるんだ!
一緒に国境を越えられる!!アリアッ!!!!!」
男は魔法を幾つも展開し、幕を壊そうとするが、一向に消える気配はない。
「聞け!!!こっちを見るんだ!!!!」
ドンドンと幕を叩く手には、血が滲んでいる。
追手は、すぐそこまで迫ってきていた。
「アリアッ!聞いてくれっ!頼む!!」
長い銀の髪を揺らし、振り向いた女の目には涙が浮かんでいた。
「アリアッ…」
女は、薄く微笑みを浮かべ、言葉を紡ぎ始めた。
「エルフの女王、アリア・ヒューズが告ぐ…」
その言葉に男は青ざめる。捕虜になるなら、まだ、良かった。
「や…まさか…!!!」
男は祈るように、縋るように、幕を叩く。
「やめろ!!これは命令だっ!!!アリア!!!!」
女は目を瞑り、諸手を空へと掲げた。
「…我が身体に秘められし力よ、今こそ断罪の時!
葬られた魂に再生を、操られた者に道筋を。
愛しい人に、命の加護を――――――…」
その時、女の口が声を出さずに動いた。
愛しい人に向けられた、最期のメッセージ。
ほんの一瞬、時が止まり、残酷に再び、動き出す。
彼女は終わりを呟いた。
「王の裁判-ジャスティス オブ キング-」
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