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その声は、女子高生らしからぬ大人びた声音。普通の大人が聞くと生意気だと顔をしかめてしまいそうです。
でも、石神先生はそんなことはせず、苦笑いで答えました。
「なるほど、あまり感心できない理由ですが、まぁ、いいでしょう」
好奇心、それを言われ、彼は少し面白みを感じたのです。
石神先生の言葉に、彼女はうっすらと微笑み、真顔に戻りました。
その表情の変化はわずか。
彼は、彼女のとある事情を思い返します。
それは彼女がただの転校生ではないというデータ。
とある殺人事件がきっかけで転校を余儀なくされたのです。
その殺人事件は、今、巷で騒がれている、夜の婦女殺人鬼。
レディ・キラー。巷ではそう呼ばれています。
その被害に彼女の母親が遭ったのです。
そんなつまらない情報を思い返しながら教室のドアを開けると、騒がしい生徒が机の上に足を乗せほかの生徒と談笑中。
更に、女子は机に菓子類やジュースを置き、スマホを弄っています。
石神先生は、穏やかに教壇へ立つと、低い声で声をかけます。
「机の上にある無駄なものをしまってください。ジュースやお菓子、携帯類。従わなければ没収させていただきます」
一瞬だけ静まり返り、生徒は彼を見ます。
石神先生は、柔らかい口調を崩さずにもう一度同じ言葉を繰り返します。
没収の部分を故意的に強めました。
その言葉に反応した生徒はちらほら。中にはわかりやすく舌打ちをしてからしまう生徒も。
ここでなら普通、教師は怯んだり、激したりするのでしょうか先生はそれを決してしませんでした。
むしろ、それを微笑ましく思っているようで。
しばらく、仕舞う音であふれかえっていた教室がまた静かになります。
生徒は、制服をきちんと着こなした少女、遠藤明日香に注目していたのです。
一部の女子や男子は彼女の病的なまでの美しさにしばらく目を奪われていました。
彼女は生徒の顔を見渡すと、小さく笑いました。
そして、黒板のチョークを取ると、自分の名前を黒板に書きました。
「遠藤明日香」
振り向いたときには、怖いくらいの無表情。 それでも、それは拒絶ではないことを雰囲気的に生徒は悟っていました。
美少女が見せるその無に近い表情は見る者の息を呑ませます。
「隣町のH町から越してきました。よろしくお願いします」
染めていない黒髪、病的なまでに白いその肌色。
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