宵闇

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日射しもきつかったので、疲れが一気に出たのだろうと、釣り船の船長さんに横になっているように言われ、濡れ布巾で頭を冷やしながら横になってうつらうつらとしておりました 他の仲間は船酔いもせず、皆楽しそうに釣り船の船長さんの手ほどきを受けながら、釣った釣れないと沖の魚が逃げ出すほどに騒いでました 私はそれを近くに遠くに聞きながら、夢と現をさまよっていたのですが ふと、ぼんやり見るともなく船を眺めていますと、誰のモノか解らない一本の手が何かを探すように船の縁から床を這い回っております 普通ならその方向に手が伸びているならば、本体は海の上にある事になってしまうので、おかしいと気付かなければいけないのですが、朦朧としている私には別段不思議な事とは思えませんでした 私以外の誰にも気付かれず船のあちこちを探していた手は、目的の物だったのか柄杓を手に取ると、すうっと海の中へと手を引っ込めて行きました 朝方早く出発した船ですが、その時はすでに日も高く幽霊と言うにははっきりとした現実感を伴っていましたので、恐怖も感じませんでした
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