宵闇

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友人達はその柄杓を持った手にはまるで気付く事はなかったのですが、海水は本物らしく ちょっと波が高くなったようで、波を被ってしまったと笑いあっておりました 私は次第に頭がはっきりとしてきまして、海面から伸びる腕など存在するはずがないと気付き、非常に不吉な予感に襲われ「少し早いがそろそろ帰ろう」と呼び掛けました 見ると、さっきまでの晴天がいつの間にか黒い雲に覆われ始め、波も少しずつ高くなってきておりました 船はすぐさま港に引き返し、船を降りた瞬間から酷い荒天となり、釣り船の船長さんも「天気予報でも荒れると言ってなかったから、少しでもタイミングが遅れていたら大変な事になっていた」と言っておりました 私は海面から伸びた腕の事を思い出し、あの腕を見なければどうなっていたか解らない あの腕に助けられたのだ と、不吉に思った事を心で詫び、そっと海に向かって礼を言いました 舟幽霊とは海で死んだ者の幽霊なのだろうけど、仲間にしようと海へ呼ぶ者と海の脅威から守ろうとしてくれる者がいるのだと 一概にひとくくりにしてはいけないと胆に命じたのです
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