『7人のビバーク』

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「雨が酷い、ビバークしよう」  先頭を歩く副部長の大声が、後ろのメンバーにどう聞こえたかは分からない。  だが、俺が背負うザックを岩肌に降ろしたのを見て皆も立ち止まった。  どうやら今年はお天気の神様に見放されているらしい。  予定の宿泊ポイントとは違うビバーク(不時泊)の提案。俺達大学の山岳部メンバーの口からは溜め息にも似た疲労の声が漏れていた。  確かに、俺もビバークは考えた。しかしこの岩肌は危ない。  周りは森に囲まれて安全なように見えるが、この辺りは山間の盆地であり安全地帯では決して無いはずだ。  鉄砲水などが来る可能性だって否定できない。  雨はますます強くなり、俺達の身体に容赦なくぶつかる。お互いの顔を見ることも出来ないが、円陣を組んで声を掛け合った。    メンバーの何人かが声を張り上げた。降り注ぐ大雨は、バチバチとレインコートに突き刺さっていた。 「流石にこの雨だとテントで凌げるかどうかも怪しいぞ」 「テントごと流される可能性だってあるし、この岩肌が多い地帯は、鉄砲水の可能性もある」 「とりあえずテントを設営しよう。寒くてたまらない」  部長である自分の勘では、鉄砲水の可能性は限りなく薄いとは思った。この山は2回目だが、下調べの段階でそんな大惨事が起きたような記録も無かったからだ。  だが、可能性はゼロじゃない。少しでも災害発生の危険があるなら、避けるべきだ。せめてパーセントを下げる、今、俺達が出来る範囲で。
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