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午前十時。二宮さんはいつも同じ時間に現れる。
最近はその予定が変わる時、さりげなく会話の中で知らせてくれる事があった。
「明日は大学に顔出さなきゃいけなくて。面倒だなあ」とか、「あ、明日本の返却日だ」とか。
多分、あの日があったからだと思う。
二宮さんが午前中現れなくて、初めて午後に来た日。
あの日、彼は私にこう言った。
『何かあったの?』
『ホッとした顔したから』
確かに、私は二宮さんの顔を見て安堵していた。だから正直にその事も彼に伝えた。
何故彼の顔をみてホッとしたか。それは解っているつもり。だけど、それを伝えたくても上手な言葉が見つからない。
だって、
――来てくれるのを待ってた。来てくれなければいいのに、とも思いながら。
なんて、あまりにも滅茶苦茶だ。
どうしてそんな事を思うのか、思いをそのまま言葉にしていたら当然訳を聞かれるのは目に見えてる。でも、私はその理由をキチンと説明できるほど心の整理がついていないというか……言える自信が無いというか……。
けれども。
けれども、だ。
私は二宮さんに話せたらと思っている。こんな私に親切に接してくれる彼に。自分の事を。
……例えその理由(わけ)が不鮮明だとしても……。
それには、弱いこの心を告白出来る勇気がなければ。
――だから私は時間が欲しかった。
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