~彼女の想い~

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「おはよう、麻衣ちゃん」 「いらっしゃいませ、二宮さん。おはようございます」 そして、今日もまた同じ時間に二宮さんは店にやってきた。 店の隅の指定席に座って欠伸をひとつ。ゆっくりとした動作でテーブルの上に数冊の本とルーズリーフを置いた。 「寝不足ですか?」 邪魔にならない場所にアイスコーヒーを届けて、座る彼を見る。 うん、と眠そうな声で目を擦る姿と頭頂部に残ったままの寝癖が、ちょっと可愛い。 「昨日集中出来なくて。こんな事ならちゃんと寝ちゃった方が良かったな」 「集中出来なかったなんて、二宮さんにもそんな事あるんですね」 「明日から近所の神社で夏祭りがあるんだよ。その祭りのお囃子担当の人がアパートにいてさ。なんか仲間と遅くまで練習してて……その後は部屋で飲み会になってたみたいだな」 「そっか…。騒がしかったんですね、一晩中」 「今朝うちにも謝りに来た位だから、他の誰かに叱られたのかもねアレは」 思い出し笑いをする二宮さん。「彼ら、随分恐縮しきっちゃってさ」とクスクス笑うと、アイスコーヒーを口にした。 「実は、僕はそんなにうるさいのを気にしてなかったんだけど」 「でも集中できなかったって」 「ああ……それはね、僕が悪いから。彼らが騒いでたせいじゃないんだ」  
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