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彼の姿を思い出していたら、机の上の携帯が震えた。
思考が昼の店に飛んでぼんやりしていたのを、からかうかのタイミング。
実際見られている訳ではないので焦る必要は全然ないのに、どこか後ろめたいというか、恥ずかしいというか……とにかく妙な感覚に慌ててしまう。
「もしもし?」
『あ、麻衣?まだ起きてたの?』
「……要子(かなこ)さん。そっちからかけてきて、それはないでしょ」
電話の主は従姉妹の要子さんだった。彼女は、電車の駅二つ分向こうの街で暮らしている。兄妹のいない私にとって、近くに住み交流の深い要子さんは姉と変わらない存在だ。
『それもそっか…。ねぇ、私昨日そっちに行った時、手帳忘れなかった?』
「うん。忘れてったよ……」
話しながら、机の引き出しを開けた。ブランド物の手帳がそこにある。取り出そうと手を伸ばしたところで、私の右手はピタリと止まった。
手帳の少し奥に見える白い小さな箱。中にはネックレスが入っている。一度しか身につけた事がない、シルバーのネックレス。
その箱から目が離せなくなる。
『やっぱりそこだったのね。あ~、良かった~!それがないと仕事になんないのよ。明日、麻衣こっちに来るでしょ?その時持ってきて……麻衣?』
一瞬思考が停止していた私は、要子さんの声も耳に入らなかった。
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