第1章

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 その女性――――母親が電話をし、駆け付けた父親と姉。  家族4人で医師の説明を聞いた。  説明を両親は一生懸命聞いているけれど、本人であるあたしは言葉をただ聞き流す。  自分のことなのに、まるで他人事のようだった。  ここにいる自分の家族のことも、自分のこともわからない。  きっと、“薫”というのが名前なんだろうけど。  自分がこうなった原因も何も、思い出せない。  なんだか不思議な感覚だ。  あたしは確かにあたしなのに、あたしが何なのかわからない。  この体は確かにあたしの体で、だけどわたしは覚えがなくて。  ――――――駄目だ、考え出すと疲れる。  “この体の持ち主”なのか“あたし”なのか。  どっちがかは知らないが、ものを考えるのに向いていないらしかった。
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