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美しさを競うように咲き乱れる真っ白な大輪の薔薇たち。
その隙間を縫うようにして伸びる緑の葉がいじらしい。
慎ましげに顔を覗かせる紫の葡萄。首をもたげる真紅のアネモネは、まるで風にさらされるなか、支え合う姉妹のようにどこか儚げだった。
花の美しさは永遠ではない。
今にも散ってしまいそうな儚さこそが、美に繋がるのだ。
まさに美の化身、ヴィーナスにこそ相応しいブーケと言えよう。
「おい。おまえの目には鱗が何百枚詰まってるんだ? 何がヴィーナスに相応しいブーケだ。よく見ろよ、腐海の縮図にしか見えねぇぞ。何なんだ、その奇妙な物体は」
「タっ、タカヤ!? ああ、あんたって他人の心の声が聞こえちゃうとか、そういうサイコパワー持ってる人だったの!?」
振り返ると、だるそうに鞄を肩に引っかけた幼馴染みが立っていた。
「アホか。おまえが自分で喋ってたんだろうが。心の声がダダ漏れなんだよ。恥ずかしいやつだな。つーかおまえ、人の机の上にそんなもの置いて、いったい何の嫌がらせだよ」
言いながらも、貴也はなにやら机の中をがさがさと掻きまわしだした。
くっ。不覚だ。
みんなが下校したはずの放課後の教室に、まさか人が戻ってくるなんて。
しかも、当人が。
これでは私の計画が台無しではないか。
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