第1章

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「涙の理由」 シエルはとても毛の薄い子です 首の内側にはほとんど毛が無くて、大人になってもうぶ毛が生えているような状態でした。 そのせいかシエルは雨の日や風の強い日、日照りの暑い日、雪の日などはお散歩の途中でも動かなくなってしまい、ママに抱っこされて帰ってくるのが普通でした。 ままはそんな弱虫シエルがとても愛おしい。 ママは愛おしさのあまり、シエルの薄毛の首の内側にそっとキスをしてあげました。 するとシエルは初めはおびえていたけれど、月日が流れ、何度も繰り返しているうちに、心を開いてくるようになりました。 それはママとシエルの絆とも言えましょう。 そんなシエルはある日の夜中に、眠っているママの首に自分の薄毛の首をなすりつけてきました。 何度も何度も。 繰り返し繰り返し。 甘えるようにいつまでも。 それが何を意味する行為なのか、その時のママには分かりませんでした。 それからどれくらい月日が経ったことでしょう。 ママがシエルの首の内側にキスをしようとしたとき、ハッとしました。 シエルの首の内側には以前とは違ってフサフサの毛が生えてきていたのです。 ママはあの日の夜中のシエルの不思議な行為の意味が分かったような気がしました。 薄毛のシエルとママの絆 神様はあの日、シエルに犬としての毛を与える約束をしたのだろうと思います。 シエルの行為は、薄毛の最後の日に、自分の薄毛の首とママのキスのお別れの涙の行為だったのではないでしょうか。 雪の日でも歩くようになったシエル。 だけど、今もママからは絶対に離れはしない。 おしまい
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