序章―絶望の始まり

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「音楽の有途 ジュリア(アルトジュリア)。どちらかと言うとクラシックのほうが好み。ここに来る前はずっとヨーロッパで演奏ばっかりしてたから日本語がちゃんと喋れてるのか不安。でも、悪意はないから仲良くしてほしい。」 どこか冷静な目で周りを見据えていた。もしかしたら彼女は一人暮らしだったのかもしれない。一人立ちができていそうな顔つきだった。 「楽器があれば演奏を見せたりできるんだけど、ないからできない。残念。」 先ほど家庭科の堀家が裁縫道具も何もないと言っていたように、ここには生活の必要最低限のものしかないのだろう。 「よろしく頼む。」 「…………宇佐美 高聡(ウサミタカサト)。…………美術。」 そう言って座ってしまった。 「宇佐美……?せめて趣味とかそこら辺だけでも……」 「…………趣味、絵を描く。」 そう呟いてまた座ってしまった。 「えっと……好きな画家とかあるか?」 「…………自分。」 会話が続く気がしない。返事は一応返してくれるが、それ以上は何もしない。天才肌というやつか、コミュニケーションが通じる気がしなかった。
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