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ォォォォォォ。
遠くでうなり声が聞こえる。
だいぶ近づいてきたのね。
眼下に見下ろした光景は、まるで砂糖に群がる蟻の大群のように押し寄せてくるゾンビの大軍。
その光景はまさに絶望であり、数刻後の自らの運命を示しているようでもある。
「・・・探知内に入ってきた。
といっても数える必要もないけど。」
サブマシンガンを両手に構える。
ここで死ぬ気は毛頭ないのだ。
ただ、黙って死ぬ気は毛頭ないのだ。
どうせ同じことでも、私は、結果死ぬ。
何もしないで死にはしない。
一分一秒でも長く、ここで生きる。
そのためにここにきたのだ。
集中が高まっていく。
眼下、遠くに見えるゾンビがまるで目の前にいるように見え始める。
ォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォォ
ブロォォォォォォォォォ・・・
うなり声に混じった異音に気づく。
・・・まさか戻ってきた?
いえ、違う。トレーラーの音にしては、軽い。
・・・・・・これは、ピックアップトラックのエンジン音。
まさかっ!?
ドガァァァァっ!!
鋭敏に研ぎ澄まされた視界に飛び込んできたものは、ゾンビの大軍の前に横の山道から飛び出し、急転回し、こちらへと向かってくるピックアップトラック。
「・・・・・・あ、ああ・・・
あ、ああ・・・・・・。」
言葉にならない想いは、ただひたすらに溢れる涙として零れ落ちる。
踵を返し、走り出す小鳥。
屋上を飛び出し、階段を転げるように降り、通路を飛ぶように走り、基地施設から飛び出る。
涙でぐしゃぐしゃになった視界に飛び込んできたのは、
正面ゲートにお尻を滑らせながら横付けし、そこから降りてくる、見慣れた、だけど、いつまでも心は見慣れない、どきどきする人影。
「ゆうすけさぁぁぁん!!」
叫び、走る。
鉄条網を這い上がり、越えて、こちら側に落ちる、最愛の人。
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