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吐き出した血だまりに顔を沈め、薄れゆく意識の中で、
小鳥が耳にした音。
それは何かを引きずる音。
それだけで誰だかわかる。
何も覚えてないのに、私に近づいてきてくれる。
動かない身体を動かして、ほんの少しずつ近づいてきてくれる人がいる。
止まりかけた鼓動が動きを取り戻し、
その音の方へと、這いずる。
指先が重なり合い、腕と腕が重なり合い、
胸と胸が重なり合い、
そして唇と唇が重なり合う。
二人だけの時間が流れ、抱きしめあう。
最後の、キスは鉄臭い味で。
それでも、最高に幸せで。
ヒーロー。
その神聖な世界に突如として、飛び込んできた、耳障りな調子外れの音。
ヒーロー、ヒーローになるとき、ぁーぁーそれは今~、ヒーロー引きさかれた夜に、お前をはーなしはしないーー!
・・・なに、この調子外れな歌。
なんだかイライラするんだけど。
目を見開く。
倒れ伏した四人の中央に、ちょこんと座る子猫が一匹。花ちゃんだ。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁーー!!」
光り輝く花ちゃん。
その光に触れていると全身の痛みが和らいでいくのを感じる。
震える腕をつき、なんとか上半身を起こす。
目の前には家牛。
雄叫びを放とうと、開いたその口が、
ぼっ!!
一瞬で消え失せる。
後に残ったのは、首から上を失った家牛。
・・・なにが起きてるの?
ゆうすけに肩を貸し、共に立ち上がる。
右横にいた家牛が何もないところに手を振り、手首から先がまた、消し飛ぶ。
ついで、その頭部が消し飛ぶ。
花ちゃんの発光が強くなり、さらに回復が早まってきたのか、少しずつ何かが動いているのがわかり始める。
家牛の身体の一部が消える瞬間だけ、緑色の巨大な何かが見える。
「・・・高速道路の案内標識?」
見えてきた視界に理解が追いつかない。
音を超える速さで動き回るそれは、巨大な案内標識を斧のように振り回し、家牛の身体を切断していっているのだ。
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