北東の森

2/3
前へ
/22ページ
次へ
「あっ!」 そこにいたのは、真っ黒なフード付きの長いマントを着た人でした。 背は私より少し高いくらいです。 「あの~…」 シュゼットが声をかけると、その背中はびくんと波打ち、立ち止まったかと思うとゆっくりと振り向きました。 「きゃっ!」 シュゼットは声を上げ決まり悪そうに俯きました。 私は何も言えずにただ立ち尽くすだけでした。 なぜなら、フードからのぞくその顔は人間でもうさぎでもない、気味の悪いとかげの顔だったのですから。 「この森にはふだん人がいないのに… しかも、子供にみつかるとはな…」 とかげは苦笑してそう嘆きました。 見れば見るほど、気味の悪い顔です。 ですが、そこで私はあることに気付いたのです。 「あ、あの……もしかして…あなたはチクタクの修理屋さんですか?」 「そうだ。僕はチクタクの修理屋だ。」 その返答に、シュゼットは驚いた様子で顔を上げました。 「じ、実は、私達…チクタクを壊してしまって…… それで……」 「……わかった。修理すれば良いんだな? チクタクはどこだ?」 「あ、は、はいっ!」 シュゼットは、内ポケットから壊れた時計を取り出し、修理屋さんの前に差し出しました。 修理屋さんの手は、皮膚はとかげのものでしたが、形はまるで人間のようでした。 「ほう。針は取れても中の機械はちゃんと動いてるみたいだな。」 壊れた時計を修理屋さんはあちこちから眺め、そして、マントを脱いで木陰に座り込みました。 下ろした袋の中からいろいろな道具を取り出して、修理屋さんはチクタクの修理を始めました。 ただ針をつけるだけだと思ってましたが、修理屋さんは慣れた手付きで時計を分解し、ねじを締めたり緩めたり、小さなこてのようなものを熱して部品をくっつけたり…… 私達はその様子をずっと見ていたのですが、気が付けば、あたりは薄暗くなりはじめていました。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加