過去

1/1
前へ
/22ページ
次へ

過去

「うわぁ!すごいや!」 倉庫の中を埋め尽くすチクタクに、チャールズは興奮しました。 そして、小部屋でチクタクを修理する操り人形をとてもカッコいいと思いました。 元々チャールズは模型を作ったりするのが大好きだったこともあり、衝動的にチクタクの修理屋になりたいと言ってしまいました。 うさぎと操り人形は何事か相談をしていましたが、しばらくして、うさぎが一枚の紙を持ってきました。 「さぁ、ここに名前を書くんだ。」 「なんで?」 「チクタクの修理屋になる契約書だ。 今まで人間で修理屋になった奴なんていないんだぞ。 感謝しろよ!」 見たこともないような文字で、なんと書かれているのかもわからないその紙に、チャールズは軽い気持ちで署名しました。 しばらくは物珍しさで楽しんでいたチャールズも、そのうちに家族のことが気にかかり始めました。 ですが、どんなに帰りたいと言っても、帰らせてもらえません。 ある夜、チャールズは倉庫から逃げ出しました。 ところが、森を抜けた途端、彼の姿は気味の悪いとかげに変わってしまったのです。 「わっ!な、なにっ!」 自分の手足の変化に気付いたチャールズの背中から聞き慣れたうさぎの声がしました。 「契約書に書いてあっただろ? 逃げ出したら、とかげに変わるってこと。」 「えっ!と、とかげ!?」 「そんな姿で帰っても、おまえがチャールズだなんて誰も信じてくれないぞ。 それどころか、魔物だと思われて……」 「やめてーー!」 チャールズは泣く泣く倉庫に戻りました。 そして、操り人形の弟子として働くことになったのです。 二人であちこちの森を渡り歩きながら、チャールズは壊れたチクタクの修理を習いました。 長い長い時が流れ、操り人形の木の足はすり減り、身体は朽ち果てて、ある日動かなくなりました。 その時から、チャールズはずっと一人でチクタクの修理屋として働いて来たのです。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加