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栢野は家に帰り、お弁当箱を渡す。
「お帰りなさい」
エプロン姿の男の笑顔に、栢野も笑顔を返す。
「一寸さん。今日もお弁当美味しかったです」
「それは大変うれしいことです」
そう告げると頬の傷を撫でる。
「何かありました?」
「んー。子供じみたこと」
「なんですか?」
「神崎っていう、学級委員が、クラス全体をまとめて、いじめをしているわけ」
「なるほど」
「俺がターゲットになったんだよね。笑えるわ」
「おやおや。私は保護者として殴りこんだ方がいいですか?」
満面の笑顔で告げる為、栢野が笑顔を返す。
「こんな楽しい経験、止めるわけないじゃん」
「モモさんは、いじめがつらいとか思わないんですか?」
呆れた眼差しを向けられるため笑顔を返す。
「何を言いますか」
男が栢野を見る。
「どうせ、崩れ落ちる日常なんだよ?それにたかが家庭のことで俺に発散させようなんて、なかなか、笑えることだよねー」
「あのですね」
「ま、いいの。いいの。そういうことがあるから、俺が派遣されたんでしょう?これも高校生活の一環として楽しむだけ。楽しむだけ。憐みを向けられ、蔑む。そんな生徒を演じて、時が来るのを待てばいい」
両手を出して笑う。
「さすれば、物語は紡ぎ、世界の物語は俺の手の中に」
「阿倍のリーダーが聞けばなんと答えるんでしょうね」
「リーダーは、面倒だと思うことはしない人だよ」
そう告げると傍にある牛乳を取る。
「あ。手当て、しておきましょうか」
思い当ったように応急処置箱を取りに行く。
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