第2章

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栢野は家に帰り、お弁当箱を渡す。 「お帰りなさい」 エプロン姿の男の笑顔に、栢野も笑顔を返す。 「一寸さん。今日もお弁当美味しかったです」 「それは大変うれしいことです」 そう告げると頬の傷を撫でる。 「何かありました?」 「んー。子供じみたこと」 「なんですか?」 「神崎っていう、学級委員が、クラス全体をまとめて、いじめをしているわけ」 「なるほど」 「俺がターゲットになったんだよね。笑えるわ」 「おやおや。私は保護者として殴りこんだ方がいいですか?」 満面の笑顔で告げる為、栢野が笑顔を返す。 「こんな楽しい経験、止めるわけないじゃん」 「モモさんは、いじめがつらいとか思わないんですか?」 呆れた眼差しを向けられるため笑顔を返す。 「何を言いますか」 男が栢野を見る。 「どうせ、崩れ落ちる日常なんだよ?それにたかが家庭のことで俺に発散させようなんて、なかなか、笑えることだよねー」 「あのですね」 「ま、いいの。いいの。そういうことがあるから、俺が派遣されたんでしょう?これも高校生活の一環として楽しむだけ。楽しむだけ。憐みを向けられ、蔑む。そんな生徒を演じて、時が来るのを待てばいい」 両手を出して笑う。 「さすれば、物語は紡ぎ、世界の物語は俺の手の中に」 「阿倍のリーダーが聞けばなんと答えるんでしょうね」 「リーダーは、面倒だと思うことはしない人だよ」 そう告げると傍にある牛乳を取る。 「あ。手当て、しておきましょうか」 思い当ったように応急処置箱を取りに行く。
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