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「こんなつまらねえことで屍魔の餌か!」
無念。
なんとつまらぬ人生であったか。源龍は無念さを噛み締め、観念する。と、そのとき。
眼前で突如と閃光ひらめいて、屍魔どもは斬りきざまれてゆく。その隙を突き、源龍は咄嗟に起き上がって改めて大剣を構えなおした。
「香澄……」
源龍の目は香澄に釘付けになる。
窮地におちいった源龍をすくったのは、香澄であった。
香澄は源龍をみつめて、くすりと微笑んでいる。
(助けられたのか)
背後に迫った屍魔の気配を察して振り向きざまに大剣で粉砕し、その顔面を踏みつぶした。
気が付けば、屍魔の数はだいぶ少なくなって。あと三体である。それを、源龍がたおすまでもなく、香澄は七星剣を振るって閃光ひらめかせれば、三体の屍魔どもはばらばらになって、破片を地に落として。
その破片はもぞもぞと動いてから、香澄に飛びかかるが。これも七星剣によって斬られて、粉々にされてしまった。
源龍はそれを茫然と見ているしかなかった。
もはや屍魔もいなくなり、静寂が竹林を包み込み。その中で源龍と香澄が視線を交えている。
しばし目を合わせていたふたりであったが。香澄は微笑みながら頷くと、風に乗ったように、すぅ、と。足を滑らせるように後ろにさがると。高く跳躍して、竹を蹴ってさらに高く跳躍して。
そのまま、姿を消してしまった。
「天女か……」
源龍はぽそっとつぶやいた。
風に乗るようにして、風の中に消え去るように姿を消した香澄は、地に降りた天女が天にのぼるかのようだった。
竹林にはひとり源龍が残されて。
あたりを見回せば、屍魔どもの破片がもぞもぞと芋虫のようにうごめいているが。放っておけばそのまま土にかえるであろう。
それをまた踏みつけながら、源龍は歩き出した。
「俺は、所詮は第六天女から逃げているのか」
と、ぽそっとつぶやく。
しかし、足が動く。動くに任せて、風を、雲を道案内に源龍は旅を続ける。
第六天女に、香澄や、屍魔どもといつ巡り会うのかわからぬままに。行くあてのない、流浪の旅をして。
剣士源龍、どこへゆく……。
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