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さて無間道士と龍玉。雑魚どもがわっと逃げ出す様が目に入り、いよいよ危機に陥ったと危機感を募らせ。
「待った!」
と龍玉への攻めの手を止め、一歩後ろへ下がる。
「どうしたの、怖気ついたのかい?」
小馬鹿にするような龍玉の声。右手を下げ、剣の切っ先は地に向けて。左手は腰にかけて。おどけた笑みを浮かべている。
男なら通常その笑みを見て、嬉しそうにしそうなものだが。無間道士はその奥にある真意が見て取れ、全然嬉しくなれない。むしろ悔しさと憎悪をにじませるのみだった。
雑魚を見送った虎碧は用心し、剣の切っ先を向け、その碧い目で無間道士の動きを注視する。
「さっきは悪かった。改心するのはわしの方だ。今後悪さは働かぬゆえ、どうか見逃してはくれまいか」
目を血走らせつつも、無間道士はしぼり出すようなうめき声でふたりに許しを乞う。だがそれへ返される冷たい言葉。
「助けてくれ、って? 村の人たちも、同じことを言ってたと思うけど。それであんたは、どうしたんだっけ?」
と龍玉はその美しい顔に氷のような冷たさをたたえ、たれ下げていた剣をかかげ切っ先を無間道士に向ける。
丸く黒いその瞳が、青白い炎が浮かんだように光る。と同時に一陣の風のように龍玉は駆け出し、その剣が無間道士の胸板を貫いていた。
瞬時に無間道士の目は、痛みと驚愕と恐怖、そして絶望の色をたたえて。胸板を貫く剣と龍玉を交互に凝視する。
龍玉の冷たくも、刺すような瞳はじっと、無間道士が力尽きるのを見守っていた。
「龍お姉さん!」
慌てて龍玉のもとまで駆け寄る虎碧だったが、間に合わなかった。雑魚どもと同様、命まで取る気はなかったようだが、龍玉はそんな慈悲は持ち合わせていなかったようだった。
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