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広大な領土を治める辰の中の、どこかの町のことだった。
いかつい形相をしたごろつきが五人、肩で風を切って町を練り歩いていた。
町の人々は、目を合わさぬように顔をそらし、身を縮めてごろつきたちをやりすごす。
それが面白くて、ごろつきたちはまわりをきょろきょろと眼光鋭く見て回り、人々を威嚇する。
「なんかおもしれえことねえかなあ、斉涜怪(ざいとくかい)よ」
「そうだなあ、一杯ひっかけてえところだな、零志頭無(れいしずむ)」
ごろつきの頭らしいふたりはまわりを見渡しながらつぶやきあうと、さる居酒屋に目をつけて。五人そろってどかどかと入り込んで、適当な席を見つけて椅子に座ると、
「おい親父、酒だ酒だ!」
と、吠えた。
店の親父はおそれおののきながら、酒を出せば。
「腹がいっぱいになるような、そうだな、肉を出せ!」
と、鋭い目つきで親父を睨みながら斉涜怪は言い。店の親父はふるえながら「へ、へい」と言うと厨房へ駆け込み肉料理をつくって出せば。
五人のごろつきどもは酒をぐいとのどに流し込みながら、肉をがつがつと食らった。
その食いっぷりはまるで餓えた狼のような食い散らかしようであり。親父は店の隅でそれを心細く見守っていた。
五人は食い終わってげっぷをして、椅子を立ちあがって店から出ようとする。
「あ、あの、お代は」
「ああん?」
零志頭無が親父をぎろりと睨みつける。
「俺たちから金を取ろうというのか?」
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