屍魔

4/5
前へ
/166ページ
次へ
「俺だよ魯仁!」 「金陽、正気に戻って!」  死せるはずの村人は突然生き返って、屍魔の村人と一緒になって村人たちに襲い掛かる。  そうかと思えば、刎ねられた首が突然飛んで村人に食らいつく。  それは龍玉と虎碧にも来る。 「な、なんだいこれは!」  飛来する首を剣で打ち返しながら龍玉は思わず絶叫してしまう。  虎碧も唖然としながらも掌で襲い来る屍魔の胸板に掌を打つが、効き目がなく。少しよろけるとすぐに体勢を立て直して再び襲ってくる。 「屍魔に噛まれた人が、屍魔になった?」 「なんだって?」  虎碧のつぶやきに、龍玉は耳を疑った。屍魔に噛まれた人間が屍魔になる。しかも、首を刎ねてもくたばらずにまた襲ってくる。  もはやこれは常軌を逸している。  なぜこんなことに、など原因を考える余裕などなく。ふたりは迫りくる危機に対処するのがやっとで。その間も村人は次々と屍魔の餌食になってゆき。  ついには、生きている人間は、龍玉と虎碧のみとなってしまった。 「な、なんてこと……」  迫りくる屍魔を追い払いながら、龍玉と虎碧は愕然とする。自分のことで精いっぱいで、村人を守る余裕がなかった。  龍玉は歯噛みして舌打ちし、虎碧は胸がひどく痛んだ。 「くっそ……」  龍玉は眉をしかめながら飛来する首を西瓜(すいか)を割るように縦に割った。が、その割れた首はもう襲ってはこないものの、脳味噌を垂らしながら芋虫のようにもぞもぞと動き続け。龍玉は生理的な嫌悪感を覚えざるを得なかった。 「虎碧、逃げよう!」 「逃げるですって?」 「そうだよ。急所を突いても死なないような屍魔を相手にしてもきりがないよ!」 「……」  虎碧は少しの間押し黙ったが、やがて「わかったわ」とうなずき。  ふたりは横並びになって、全速力で駆けて屍魔どもの間を突破しようとする。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加