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「おい」
「へへへ」
斉涜怪が零志頭無と仲間たちに耳打ちすれば、五人はだっと駆けて剣士のもとまで来るや、さっと周囲を取り囲んだ。
取り囲まれて、剣士は五人を見据えた。
「おい兄ちゃん、でけえ『だんびら』担いでいるじゃねえか」
「ちぃくと、俺たちにももたせてくれねえか」
斉涜怪に零志頭無らはへらへらした顔をして剣士の大剣に視線を集中させている。よほど大剣に好奇心をそそられたようだ。
剣士はしばらく五人を見据えてのち、
「いやだ」
と、言った。
「なんだとこの野郎!」
斉涜怪がすごんで、剣士の襟をつかむ。それを見る町の人々は遠巻きにことの成り行きを見守るしかなかった。
零志頭無も同じようにすごんで、剣士をにらみつける。
「なんだ、こけおどしか」
「……」
剣士は応えない。
その様子に、剣士が自分たちをおそれていると思ってか、斉涜怪は得意になって襟をつかむ拳に力をこめた。
「おい、なんにも言い返さねえのか。そのでけえ『だんびら』が泣くぜ」
斉涜怪は剣士に顔を近づける。臭い息が剣士の鼻を突いたようで、その眉がぴくりと動いた。
「なんとか言ったらどうだ、ええ!」
「びびってんのか、こらぁ!」
斉涜怪に零志頭無らは口々に剣士を罵ったが、何の反応もなく。いよいよびびったと五人はさらに得意になっていた。
「腰抜けが」
斉涜怪は勢いよく剣士を突き放せば、ややよろけながらも地を踏みしめて剣士は体勢を途整えた。
「えらけりゃ、その『だんびら』で俺たちを斬ってみろよ」
斉涜怪に零志頭無が言うも、しかし、剣士は何の反応もない。それを見て五人は嘲笑った。
「そうか、びびってんのか。それなら……」
斉涜怪はおもむろに足を広げて、
「俺の股をくぐれ」
と、言った。
一瞬、剣士の目が光った、ように見えた。
剣士は背中の大剣に手を伸ばせば、軽々と持ち上げて上段に構えた。
「やっちまえ!」
「そんなごろつきども、叩っ斬っちまえ!」
見かねた町の人々は口々に斬れ斬れと叫び。これには斉涜怪も、すこしばかり怖じた。
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