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『河怪之事』
(* 耳嚢・巻之七より)
これは七市という座頭から聞いたはなしである。
七市は、上総の国、夷隅郡(ごおり)大野村(現在の千葉県夷隅郡夷隅町)の出身だ。
大野村は、大多喜城から南へ1里ほどいった、山あいの小さな集落である。
七市は、生まれながらの盲人ではなく、病を得て二十四の歳に盲目となった。
幕府は、盲人に対する政策として、彼らに金貸しと鍼や按摩を生業(なりわい)とする優先権を与えていた。
かの有名な座頭市の座頭というのは、名前ではなく一種の階級のようなもので、一番上の位は検校である。
検校になるためには、千両以上の金が必要だといわれていた。
さて、この七市が盲目になる何年が前のはなしである。
大野村には、夷隅川という川が流れている。養老川とならび房総半島では、珍しく大きな川だ。
しかし、山あいのこのあたりでは、川幅は十間ほどしかなかった。
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