河怪之事

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ぐねぐねと流れる川には、字縦の井戸(あざたてのいど)という、いたって深い淵があり、釣りびとのあいだでは、魚がよく釣れる場所として知られていた。 釣りが大好きだった七市は、ある日、その字縦の井戸に竿を出すために、深い藪をわけいり山に向かった。 字縦の井戸とはよく名付けたもので、うっそうと木々が生い茂る森のなか、昼なお暗いその淵は、流れもゆるやかで、蒼々と水をたたえ、対岸の崖には、びっしりと竹藪がおおいかぶさっている。 瀬尻から淵にかけて、川の澪筋(みおすじ)が流れこむあたりには、流れに沿って、キラキラと魚が群れているのが見えた。 魚は、流れてくる餌を補食するため、時おり反転しては、白い腹に光を反射させていた。 たしかにその淵は、魚がよく釣れる。 七市が竿を出すたび、形のいいヤマベやハヤが次々と竿を曲げ、しばらくは夢中で釣っていた。 いい加減魚籠(びく)が重くなったころ、七市がふと足元を見ると……
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