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とその時、老婆が姿を見せた。
「どうだい、足が治った具合は?」
老婆がそう尋ねると、サーラは答えた。
「兄さんの足は治っていません。あたし…」
サーラは言葉に詰まった。すると老婆はにっこり笑って言った。
「おや、あんたの目は節穴かい?あんたの兄さんの足はもう、とっくに治っているんじゃよ。その証拠に、兄さんの目はまっすぐに前を向いておるじゃろう。たとえ不自由な足であったとしても、心は一歩前へ進んでいるではないか。それが本当に治さなくてはならなかった足なんじゃよ」
そう言うと、老婆は手を振って戸口へ向った。サーラは老婆の背中に向って言った。
「あの、お代は…」
老婆は扉に手をかけた。
「お代か、そうさの。これから毎日、あんたの歌を聴かせてもらいにいくよ。なあに、邪魔にならんように聴いておるから心配はいらんよ」
そう言って老婆が消えていくのを、2人の兄妹は見えなくなるまで見送っていた。しっかりと力のこもった兄の腕に肩を支えられ、妹は、にっこりと微笑んだ。
~終わり~
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