孤独の中の人肌

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   酒……のせいか。  外に出ると、キンと骨に響く寒さが肌をすり抜けた。  脳に甦る記憶は、俺がまだ何も分かっちゃいなかった時のもの。  俺の幼馴染みの明智。  俺の中学からの友達、光久。  その名を口にしたからか、ゾッとするほどの孤独が胸を痛めた。 「あ、け、ち……」  名を口にするのは、何年ぶりか。  光久との暗黙の了解の如く、名を口にすることはずっと無かった。  だからか。  今、光久が近くに居ないことを不安に思うのは。  俺は、誰も知らねえ場所にいて、知りもしねぇ時代に居る。  過去。行けるなら、この時代じゃなくて……中学くらいに戻りたかった。 「明智……か」  呟く声には、俺らしくない細さが混じり、強く瞑った瞼はあの日から成長を止めた明智の姿が映る。  暗黒時代なんて、一括りに言うが……あん時は、そうしなきゃ壊れる寸前だった。  光久も、俺も。  歪な繋がりかたを深めた光久と、隠れるように又吉を頼れたことが、救いだったと今は本当に思う。  狂ってしまえば楽になる。  一時的に、何も考えなくて済むから、そう思っていたし……実際に、喧嘩してる時は、遣りどころの無い苦しみが和らいだ。  そんな俺らを、見捨てずに救った又吉。  今の俺は、少しはまともになってんだろう。  少しくらいは、自制もきく。  笑える、おちょける、尖りを無くすことが出来ている。 「…………嫌な気分だ」  思い出は、良いものさえも黒く染める。  明智、光久、千歳。  狂わせた人生の始まりは、俺のせいだと自覚していて……取り返しのつかないことになったことへの償いは、どうするべきか今も分からねぇ。  今も……本当は暴れたい程の楽を求めている。  壊せ、と俺の中で何かが呻くのを、聞こえないフリをしていて……自分に抗うしかない。  もう、十年だ。  それだけの時を過ごして漸く、何一つ変わっちゃいねーが、社会に馴染んだフリをするのが板についていた。  なのに、こんなとこに来て、常に疑心を向けられて、全てを可愛いと思うようにしてみても、思い出せば黒く染められる。  苦しみが、襲いかかってくる。  
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