孤独の中の人肌

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   酔ってんだな、俺は。  そう思って、落ち着かせるために足を踏み出す。  寒い。だが、寒さが気持ちよくもある。  俺の背を追う誰かさんの気配を知りつつも、尚も足を進めた。  別に良い。追われても、俺は逃げる気もないから、好きなだけ着いてくりゃ良い。  外灯の無い暗闇に、月が放つ弱い光。  闇に目が耐性をつければ、そこまで見えないってことはない。  着物、背の低い家屋、砂の舞う町。どれも見慣れない風景だ。 『なっちゃん』  永倉さんが、冗談で言った俺の呼び名は、明智だけに許したものだ。  俺をそう呼ぶのは、明智だけ。  幼馴染みでも、明智は進学校へ行くほどに真面目な奴だったし、俺は勉強なんてせずに走り回るような奴だったから、周りからは白い目で見られてた。   『なっちゃん、俺ね、友達は選べって言われたんだよ? 選んでるのになぁ、なっちゃんを』  明智は俺を選ぶ。  屈託の無い笑みで、明智は何度もそう愚痴を溢していた。 『俺ね、光久の妹と付き合うことになったんだよぅ。結婚したら、光久を御兄様とか言わなきゃなんないんだよねぇ。やだなー』  光久の妹と付き合うことになった時に、嫌そうにしながらも嬉しそうだった。結婚なんて考えるには早かったが……幸せそうな顔には、本当にそうなるんじゃないかと思っていた。 『なっちゃん、喧嘩はやめなよ。傷付けるのってさ、自分の手も痛いんだよ? 俺が手当てしてあげるけどさ、治す意味なくなっちまうだろ?』 『なっちゃん、俺ね、一回喧嘩してみて良い? なっちゃんも、みっちゃんも何を考えてるのか知りたい……』  矛盾したことを言い出したのは、中学三年生の初冬。  喧嘩をする俺や光久の考えてることを知りたいからと、明智が入ってきた。 『なっちゃん……喧嘩、楽しい? 俺ね、最近よく絡まれんの。負けてばっかだからかなぁ? 喧嘩は楽しくないんだけどね、なっちゃんが助けに来るから、少しハマる。強すぎて、笑えるくらいにハマってきたかも』  口の端に絆創膏を貼って、明智は爽やかに笑ってた。 『千歳に迷惑になるから、もう喧嘩はやめとく。手出さないから、俺がやられてたら、なっちゃんが助けてね』  苦笑しながら、明智が俺に頼んだのは、高校一年生の初夏。  そう、頼まれてた。  
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