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どこかもわからない場所、それに相手の姿も見えないまま迎え撃たなければならない恐怖。
ドサッと、目の前で気丈に大悟を睨み付けていた狼が倒れた。
気を失ったのか、死んでしまったのかはわからないが睨み付けてきたあの目は覚えている。
まだ死なない、誰にも負けない、そんな強い誇り、覚悟が伝わってきた。
「ビビってんのか? 俺?」
だから鼓舞しよう。
心を、不安に押し潰されそうなこの心を、はぐれて一匹になっても自分を強く持っていた狼のように、負けない、誰にも負けない!
「一撃、一刀の元に切り捨てる」
景光を構え直す、大きく息を吸って吐いた。
繰り出す技の為に気を練る。
鞘の中に神経を通すように、深く、深く。
刀の先まで己の身体になるように。
「……?」
集中して気づく、目が覚めたばかりの時に感じた力強い気配が自分の周りに集まって来ている。
「これは、『気』?」
昔、祖父の言っていた気功術、空気中にある気を集め己の力にする術だと聞いたことがあった。
祖父が教えてくれた刀術はそれをもちいた技ばかりだった。
祖父には何か不思議な力がある、だからできるんだ。
そんな風に思っていた大悟には、その感覚がわからず技術のみを追求してきたが。
「今なら、使えるかも」
祖父の教えてくれた刀術の本来の技、威力を再現できるかもしれない。
過去に一度だけ見たことがある。
祖父の体に見たことの無い何かが取り巻くように集まり、放たれた技は木刀から繰り出されたとは思えない切れ味と破壊力をもって一本の樹木を斬り倒した。
「抜刀術、『五胴落』(ごどうらく)」
大きな猪のような化け物が飛び出してきた。
鼻の横から突き出た鋭い牙で大悟に襲いかかる。
それを避けようともせずに大悟は鞘から刀を抜き放った。
鞘を持つ左手の親指で刀の鍔を弾きだし、その勢いを殺すことなく右手で刀を抜刀、更に身体にも回転をかける。
五つ重ねた人間の胴体を一撃で両断する威力からこの技の名前がついた。
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