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「訳が分からん」
手紙を読み終えながらつぶやく。もう何度となく読んでみたもののいまいち意味が分からない。
とりあえず手紙の通りに道場へ来たがこれといって何かがある訳もなく使っているのが大悟
だけになった寂しい空間が広がるだけだ。
「世界が変わる、か」
じいちゃんの手紙の一文を思い出す。この言葉に強く引かれたというのもここに来た理由でもある。
世界は変わらない、残酷すぎる程に時間は平等に進み大きな変化は見込めない。大悟はそれが退屈だった。同じ日常が淡々と進み、学園に行って男友達と馬鹿な話をする。
それでいいのかもしれない、それ以上を求めるのは贅沢なのかもしれない。それでも大悟はその繰り返しに変化が欲しかった。この手紙にはそれが起こるかもしれない可能性を感じた。
どうして?と聞かれればただ何となくとしか返せなかったが直感だ。直感が大悟に行けと言っていた。
「なにも起こらないぞ、じいちゃん」
愚痴を言った瞬間、足下の床板が抜けた。
「お? おぉぉぉぉぉああああ! いてっ!」
尻餅をつく、衝撃からみてそんなに高い距離ではなかったみたいだ。ただ視界はよろしくない上から差し込む光がうっすらとあたりを照らしているだけだ。
立ち上がり体に怪我が無いことを確認しつつ周りを見渡す。
「これは……」
石造りの台座だった。
そこに一振りの刀を鎮座していた。
長い間置かれていたはずのそれは一切の汚れを見せずほこりすらかぶっていなかった。
分かることはただ一つ
「じいちゃんの刀だ」
そう失踪した祖父が大切にしていた刀だ。刀の銘はなんと言ったか、覚えていたはずなのにすっと出て来ない。
「たしかーー昇竜影光」
ぽつりと、呟きながら影光に手を伸ばす。
ずんとした重量を感じながら影光を持ち上げた瞬間
『時、きたれり』
響くような重々しい声とともに視界が白く染まった。
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