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「い、委員長が困ってる時は……副委員長がフォローするのが当たり前なんでしょ!?」
唐突に立ち上がり、指を突き付けて声まで張ってくる菜月。えぇ……急になにを言い出すかと思えば、なんだよそれ。
「……そんなの言ってないぞ」
クラス委員長の話題なんて今は関係のない事柄である。それに僕は菜月の時みたいに切羽詰まるほど追い詰められていないし、そこまで困ってもいないしな。
だから、ハッキリと伝えよう。
「わかった。作戦はここまでにしよう。後は一人で頑張ってみるよ。ありがとな」
───その言葉を言い終えるか否かの瞬間に、唐突に僕は水を被った。
アイスバケツチャレンジなんてやっていないのに、体温が一気に下げられて瞼に氷がぶつかる。髪の毛から雫が落ちるのが見えて、ようやくそこで自分が水を掛けられたのだと悟った。
「なんだよ……いきなり!」
ステーキかよと、目をやると菜月は紙コップを握ったまま、僕を睨み下ろしていた。
周りにはお客さんもいたのに容赦なしだ。彼女の瞳から怒りの感情が曇ったとき、ふとこんな言葉を水の次に浴びせられる。
「あっそ。じゃあ、ひとりで勝手にすれば!?」
罵声を言い残して菜月はどこかに立ち去っていく。
シャツが雨に打たれたようにビショビショになっていた。替えは持ってきているが、スーツケースはバスの中にある。幸いなことに濡れたのは上半身だけだったので、なんら問題はなかったが、感覚的に気持ち悪かった。
「なんなんだよ、菜月のヤツ……」
意味が分からない。どうして怒られなければならない。流石にムカついてくる。追いかけて引き止める気にもなれなかった。
水の溢れたテーブルを紙ナプキンで拭きながら、唇を噛む。濡れてボロボロになった紙から、しなしなになったさっきのポッテトが出てきた。すっかり冷めたそれを再び口にしようとは、今はもう思わない。
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