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「探したぞ。神速の星」
「そのあだ名では呼ばないで」
待ち合わせはチュロスやチキンなどが売られているワゴン近く。こちらに気付いていなかったので呼び掛けると、あからさまに嫌そうな顔をされた。
「で?」
「あぁ、僕が言い過ぎだった。ごめん」
「……それだけ?」
頭を下げるが彼女の怒りは収まってはいなかった。それだけと言われればそれだけである。うーーーむ。ならば、コレの出番か。
ゴソゴソと僕はポケットから麻薬風の芳香剤を取り出す。例のお店で無料でお試しプレゼントされたモノだ。女性はこういう香り系が好きと何かの雑誌で見たことがある。
「じゃあ、どうかこれで許してほしい」
「はぁ……? なによこれ」
「ブラックマーケット市場では高値がつく密輸品だ。普通のお店では売ってないからレア品だぞ。それに、すごくいい匂いがする」
菜月に袋に入ったヤクを手渡すと、この子は呆れた様子でそれを受け取ってすぐにその場に捨てた。こ、こら! 希少価値があるのに!
「要らない。ふざけてんの?」
「……ふざけてないよ。な、なら!」
僕はワゴン車を指差す。
「なにか買ってこようか? さっきから何も食べていないし、お腹が空いてるからイライラしてるのかも。あ、お金はいいぞ!」
「要らない! 食べないって言ったじゃないのよっ! 大体、あたしがなんで怒っているのかわかってんの!?」
やっていることは完全にパシリだ。ご機嫌取りパシリ新垣。
ていうか、なんで怒っているのかってそんなのわかりっこないぞ……。読心術なんて使えないしな。
「それを僕がわかっていないから、余計に怒っているんじゃないのか……?」
答えると菜月は固まっていた。思考停止したようだ。けれどその後、すぐに乱暴な言葉を発する。
「そ、そうよ。それがわかっているなら、どうしてもっと信じてくれないワケ!? 別にムリしてわかってほしいとは言ってないけどっ! 少しくらいは信用してくれたっていいでしょ!?」
「す、すまん……」
曖昧な表現だったのでピンとは来ていなかったけど、とにかく『信じてほしかった』というのは理解できた。
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