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「よし、行くか。【火事】の出口付近で待っておこう。『ロングビーチアイランド』エリアだったよな?」
「ちょっと待って。今、電話して聞いてみるから」
スピーカーをオンにして、安穏と通話を始めている。いいなぁ、連絡先交換したい……。
「『もしもし、なっちゃん? 善一くんも一緒かな? 今、どこにいるの?』」
「後で向かうから待ってて。てか、のどか。”乗りたいアトラクションがある”って言ってなかった?」
「『うん、言ったよ。観覧車。でもなっちゃん高所恐怖症じゃん』」
「……違うし。ただ高い所が苦手なだけ」
一体なんの話をしているんだ? 観覧車、そんなものあったっけ。
「そうそう、善一が一緒に乗ってくれるんだって。観覧車が好きで好きでたまらないらしいから、二人で行ってきなさいよ」
「へ?」
観覧車、二人きり、好きでたまらない? いやいやいやいや、待て待て。状況がつかめない。
「あ、うん。了解。伝えておくわ。はい」
電話を切って返事を交わす彼女。はい? へぇ? 何が起きていますのん……。
「一体どういうことだ? あの子が観覧車が好きだなんて聞いてないぞ……。というか協力はしないって」
「言ってなかったし、これで協力は最後よ。念願の二人きり。感謝なさい。ね? 【確実】だって言ったでしょ」
ニヤリと笑って菜月は立ち上がる。要するに、そもそも最初から最後の切り札として用意していたらしい。作戦が上手くいかなくても、全てを帳消しにするカードを残していた。
……予想外だった。こんなの卑怯じゃないか、どうして教えてくれなかったんだ。
『具体的な方法はない』って大嘘にもほどがある。
呆れながら僕はつい頬を緩めてしまう。何が作戦だよ。てか、好きな人と二人だけで観覧車って……実質、勝ち組?
「菜月、お前……」
苦笑しながら言うと、アイツはなんら悪びることなく堂々と返答してきた。
「性格悪いとは、よく言われるわ」
あっけらかんとした態度で海島 菜月はスマホをポケットにしまう。よく言われる、それは過去の経験からか。古傷がすっかり癒えたように開き直る彼女の様子に、ある種の尊敬の念を抱いたのは言うまでもない。
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