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食欲をそそる湯気と肉が焼けるジューシーな匂い。
皿の上に横たわるハンバーグとサラダ。フライドポテト。
添え皿にはそれぞれ、焼きたてのバケットとチキンスープ。
洒落たデザートグラスにはカラメルソースが薄くかかったカスタードプリン。
ハンバーグの上に乗せられた半熟目玉焼きにそろりと慎重に切り目を入れると、とろりと黄金色が焦げ目がついたハンバーグに広がる。
ナイフとフォークで優雅に口に運ぶと、幸せが口の中いっぱいに広がった。
「ん~、おいしぃい~!!」
ティルアは落ちそうなほっぺたに触れながらうっとりとした表情でトレイの料理達を見渡した。
ざわざわと話し声が絶えない社員食堂は多くの兵らが詰めかけていた。
敷地もかなりのもので、ラズベリアの食堂が四つ丸々入ってしまう程の広さ。
城も領地も広ければ、それを守護する兵らの数も並大抵の数ではない。
統一感のある服装が課せられていれば潜入は失敗に終わるだろうが、兵らの格好はみなそれぞれの服を身にしていた。
持ち込んだ服は以前ティルアが訓練用にと使用していた軽めのレザースーツ。
浮くのではないかと心配してはみたものの、中には重装鎧を身にしたまま食事を摂る猛者もいる。
その辺の問題は無さそうだった。
外貌にしても髪色、瞳の色、肌の色。
多種多様な者達が寄せ集まっている。 ティルアが一人紛れていたとしても、ばれることはない。
テラス席の端の端を好きこのんで着席する者はそうはいない。
だからこそ堂々と回りを気にすることもなくティルアは食事にありつけたわけだが。
「ん、見ない顔だな」
「へ?」
ふいに声をかけられ、ティルアはフォークを口にしたまま顔を上げた。
「……顔、いや、口か。
すごいことになっているぞ」
オールバックにされた灰色の長めの髪。後方で留められた赤いリボン。
目を引く太めの眉。
そしてセルエリアの国獣の刺繍が描かれた真紅の詰襟服。
以前、ギルバードが身にしていたものと酷似していた。
恐らく、いや、確実に彼は王族の『誰か』だろう。
ティルアは口の中にたっぷり詰め込んでいたハンバーグをごくんとひと飲みした。
ここは何がなんでもばれるわけにはいかない。
恐らくは三人いる婦人のどの者かの子だろう。
予測はつくものの、名前が出てこない。
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