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「はい、百貨店に強盗団が押し入り、住民の他、観光客およそ五十人余りの市民を人質に立て籠りを始めました。
人質の中には使節団の方が巻き込まれているとの情報もあり――」
「なんだと!?」
ハムレットが声を上げると時を同じく、ティルアはすぐにも駆け出した。
「お、おい、どこへ……どこへ行くつもりだ!
勝手な行動をして強盗犯を刺激などされたら困る!!
待て、おいこら待て!!」
ハムレットも追おうとするものの、やはり単独でどうこうできるものでもなく、団員が集結するまで待つ他ないと判断する。
「くそっ、あの新兵が――!
ん、そういえばまだ名前を聞いていなかったな……」
* * * *
「ティルアが、ティルアが部屋を出ていった……!?」
「はい、他のお部屋を案内して欲しいと頼まれまして……」
メイドは内心汗を浮かべながら、頭を垂れた。
愕然とした表情のアスティスを目にするのは、勿論初めてだった。
主人の心は紛れもなく彼女に傾いていると確信している。
だが、あの恐ろしいミアンヌには逆らえない。
ミアンヌが主人であるアスティスを慕っていることは使用人の中では当然のこととして扱われている。
「ご気分が優れないとのことで、部屋には来ないでほしいとのご伝言でございます」
「ティルアがそう言っても構わない、部屋まで案内してくれ」
「承知いたしました」
焦燥、心痛、動揺。
一言も発することなく、ただ口元を抑え、彼女が居なくなった部屋を見渡す姿はいつもメイドが感じていた覇気が一切伝わってこなかった。
国賓であり、隣国のミアンヌらや使節団の面々が滞在していることで空き部屋が少ないことはアスティスも知るところだった。
だが、彼女に宛がわれた部屋は使節団の者が使用するものですらなかった。
「なぜ、……なぜティルアの部屋をここにした?」
「申し訳ございません。
使節団の方々とティルア様を鉢合わせさせてしまうわけにはならないと……」
ティルアに宛がわれた場所は使われていない使用人の部屋。
アスティスは怒りでわなわなと拳が震えてくるも、メイドはあくまで国のためを憂い、行動したものだ。
「……そんなことはもう時間の問題だ。
ティルアには、もう心苦しい想いなどさせない……絶対に」
手に掛けたドアを開け放ったアスティスは眼を見開いた。
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