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「ったく、あのバカは……!
男の姿で突然戻ってくるなり、着替えたかと思えば……こんな――」
人だかりの端、騒ぎを聞き付けたギルバードは百貨店の入り口を凝視した。
五階建ての百貨店はセルエリアの繁栄の象徴ともされるタワー状の建物。
百貨店は中央街に位置する。経年で所々に罅や汚れがあるものの、デザインや装飾は現在にもひけをとらない比類なき秀麗さを擁する。
豊かさの象徴は、ピラミッドの下層に位置する者達にとっては邪魔な産物でしかない。
今回の騒動の首謀者は既に割れている。
セルエリアの貧民らが主に貴族階級の者達に対しての不満や援助を訴える、いわばクーデターのようなもの。
このような騒動はセルエリアでは定期的に起こっていることであり、その度に騎士団の者らが駆け付けて鎮圧させている。鼬ごっことでも言うのか、国と貧民らの溝は狭まるばかりかより一層広がるだけだというのに。
百貨店の入り口からは解放された民らが次々と現れては走り去り消えていく。
辺りは騒然となっていた。
それもそのはず、民の解放を条件に身代わりとなった者は、一国の姫。
ラズベリアという国を耳にしたことがない民であっても、類稀な美貌と凛とした佇まいが、彼女の身分が真実であることを納得させる。
艶のある栗色の髪は絹糸のように細く。
きめ細かさが際立つ美肌は抜けるような透明感を。
何者にも屈することのない強い緋色の瞳は凛々しさと神々しさを。
町娘用の量産品ドレスを最高級の逸品に変えてしまう眩いばかりの存在感。
「約束通り人質は解放してやった」
後方から鋭いナイフがティルアの頬に突き付けられるも、ティルアは決して命乞いすることも暴れることもしない。
「そうか……よかった」
ただ安堵するだけだった。
その言葉を間近で耳にした男は理解不能だった。
「あんた、本当に一国の姫なのか?
他国の民を助けるためにここまでするものなのか?」
「王族というものは、民を慈しみ、助けるために存在すると僕は思っている。
僕達王族はそんな彼らが汗をかいて得た実りを貰い、こうして生きていられるんだ。
王族として、民の危機に駆け付けないわけにはいかない」
その瞳に翳りなく、真実だと理解すると、男のナイフを持つ手が一瞬緩んだ。
ティルアはそれを横目で確認し、問いかける。
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