第二夜 絡みゆく運命

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 ティルアはドレスの裾を引き裂いた。  大胆に露わになる白い大腿。  黒のガーターベルトにはストッキングではなく、一本の剣が留められていた。  刃物を手に肉薄する騎士団の男はさっと顔色を変え、立ち止まる。 「な、何……だと。  どういうことだ、貴女は人質になっていたのではなかったのか!?  その剣は――!」 「勿論……騎士団の皆様がご到着された頃合いに逃げ出すために使う予定でした。  けれど今の僕は逃げるわけにはいきません。  僕は民を護る。それは何も人質にされた方々だけが民ではない。  苦しみを伝えるためにこんな形でしか表現できない民を捨て置く、力で捩じ伏せ、押し込める!  それを正義と認めてしまうわけにはいかない。  だから、僕はここを退かない!」 「なっ……!」  鞘に納められたままの剣を手にティルアは油断なく構えた。  綺麗な細い脚が公衆の面前に露わになるも、構わずに。  ティルアへ向けられる視線が変わる。  男達はティルアの細い脚に釘付けになっていた。 「さて、双方、そこまでに致しましょうか」  群衆から人影がひとつ現れた。  長めの銀髪と、純白のクローク。  手にする錫杖がしゃらんと音を立てる。  瞳のブルーがアスティスのインディゴブルーと重なる。 「ラサヴェル大司教……!」  前に進み出るラサヴェルを前に、騎士団の男は頭を下げ、後退した。  ティルアへと近付いてくるラサヴェル。  アスティスの言葉が脳裏をよぎり、ティルアは警戒を強める。 「そう警戒しないでいただけますか、緋薔薇……いえ、ティルア姫。  またお会いましたね」 「……ラサヴェル大司教」  妖麗な笑みはどこか蠱惑的でもあった。 「女性がそう簡単に公衆に肌を晒すものではありません。  “ そういう目的 ”で近付くのならば話は変わってきますけれど」 「…………っ!!」  ラサヴェルの瞳がティルアの全身を舐めるような目付きで見下ろす。  首筋の愛痕も、露わになる大腿も。  感情を無くした醒めた目付きにティルアは思わず脚を隠すように手を置いた。 「そう、それが正解です。  そんなあられもない姿を誰彼構わず見せるものではありませんよ」 「…………はい」  素直な返答にラサヴェルは視線を解いて、ふっと口元に笑いを浮かばせた。
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