第一夜 愛に咲く所有印

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「……へ、へぇ、そうなんだ……」  ティルアは落胆を気取(けど)られないように、自然にと言い聞かせながら発した。  がっかりと肩を落とす訳にはいかない。 「おれでは不服か、そうか。  ふん、まあ別にいい」 「そんなこと言ってないでしょう!」 「嘘をつくな、ティルア。  おれの前では隠し立ては無意味だ。  お前の考えていることくらい手に取るように分かる」 「ギルの意地悪」  どうにもこうにも、自分が折れるしかないと悟ったティルアはぶすっと頬を膨らませ、恨みがましい眼をギルバードに向けた。  「荷物はおれの孤児院で預かろう。付いてこい」  ティルアを見ることなく、彼はそそくさと市街へと抜ける道を先に進んでいく。 「ちょっと待ってよ……あ」  地を転がしていたキャリーがいつの間にか無くなっていた。  ふと、どんどん先を行ってしまうギルバードの手にあると気付く。  ティルアは彼の背中の広さに気付き、ぶっきらぼうな中に隠される彼の優しさを今更のように思い出す。 「……ありがと、ギル」  消え入るような小声でぽそっと呟いたティルアは、ドレスの裾を摘まんで心持ち小走りに駆けてギルを追った。  * * * *  ギルバードの背を追う。  途中振り返る素振りはしないものの、速度を落としている姿が何ともギルバードらしい。  急がせることもさせず、手助けをして甘えさせることもしないところがギルバードの見えない優しさなのだろう。  港を一歩抜けると、そこには洗練された街並みが広がっていた。  ウォームカラーの石材で構成された石畳には、ストーンカラーの違いによって幾何学シンボルが浮かび上がる。  壮大なスケールの街を分断するいくつもの水路には透明感溢れるクリスタルウォーターのせせらぎが耳に届く。  大都会だというにも拘わらず、緑が目につくのは、用水路が地下を通っているからだろう。  メインストリートであろう四つのラインが引かれた大通りには街中を回る辻馬車が忙しなく馬蹄を響かせていく。  両端に建ち並ぶ店舗の看板は色とりどりのキャッチや美観を保っており、歩道には等間隔に街灯が並んでいる。  あまりの美しさとスケールに圧倒され、ティルアはギルバードを追うことも忘れ、立ち止まった。  
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