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うーむ。
「どういうことになるんでしょうか」
取り返しにくるんじゃない?
師匠は囁く様な声で言うのだ。やめて欲しい。そんな風に俺をいびりながらも、師匠はまた難しい顔をして写真を睨みつけている。
部屋に入った時から同じ写真ばかり繰り返し見ていることに気づいた俺は、地雷と知りつつ
「なんですか」
と言った。
師匠は黙って2枚の写真を差し出した。俺はビクビクしながら受け取る。
「うわ!」
と思わず声を上げて目を背けた。ちらっと見ただけで、よくわからなかったが、猛烈にヤバイ気がする。
「別々の場所で撮られた写真に同じものが写ってるんだよ。えーっと、確か・・・」
師匠はリストのようなものをめくる。
「あった。右側が千葉の浦安でとられたネズミの国での家族旅行写真。もうひとつが広島の福山でとられた街角の風景写真」
ちなみに写真に関する情報がついてたほうが、高い値がつく。と付け加えた。
「もちろん撮った人も別々。4年前と6年前。たまたま同じ業者に流れただけで、背後に共通項はない。と思う」
俺は興味に駆られて、薄目を開けようとした。
その時、師匠が
「待った」
と言って俺を制し、窓の方へ近づいていった。
「夜になった」
また難しい顔をして言う。なにを言い出したのかとドキドキして、写真を伏せた。
師匠が窓のカーテンをずらすと、外は日が完全に暮れていた。確か来たのは5時くらいだから、そろそろ暗くなって来てもおかしくないよなあ。と思いながら、腕時計を見る。短針は9を指していた。
え?! そんなに経ってんの?
と驚いていると、師匠が唇を噛んで
「まずいなぁ。実にまずい」
と呟き、
「何時くらいだと思ってた?」
と聞いてくる。
「6時半くらいかな、と」
確かに時間が過ぎるのが早すぎる気もするが、それだけ写真を見るのに集中していただけとも思える。
「僕は正午だ」
それはありえないだろ!しかし師匠の目は笑っていない。何かに体内時計を狂わされたとでも言うのだろうか。
師匠は、
「今日はここまでにしようか」
と言って肩を竦めた。俺もなんだかよくわからないけれど、自分の家に帰りたかった。
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