葬祭

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非常に、非常に、肩身の狭い思いをしながら俺はその家での生活を送っていた。 家にいてもすることがないので、たいてい近くの沢に行ったり山道を散策したりしてとにかく時間をつぶした。 師匠はというと、持って来ていた荷物の中の大学ノートとにらめっこしていたかと思うと、ふらっと出て行って近所の家をいきなり訪ねてはその家のお年寄りたちと何事か話し込んでいたりした。 俺は師匠のやり口を承知していたから、何も言わずただ待っていた。 二人いるその家の子供と、まだ一言も会話をしてないことを自嘲気味に考えていた6日目の夜。ようやく師匠が口を開いた。 「わかったわかった。ほんとうるさいなあ、もう教えるって」 6畳間の部屋の襖を閉めて、布団の上に胡坐をかくと声をひそめた。 「墓地埋葬法を知っているか」 という。ようするに土葬や鳥葬、風葬など土着の葬祭から、政府が管理する火葬へとシフトさせるための法律だ、と師匠はいった。
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