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厚手の布と青いシートで2重になっている小山が奥の壁際にある。
やっぱりやめよう、と師匠の袖をつかんだつもりだったが、なぜか手は空を切った。手は肩に乗ったまま動いていなかった。
師匠はゆっくりと近づき、布とシートをめくりあげた。木箱が出てきた。大きい。正直言って、小さな木箱から小さな肝臓の干物のようなものが出てくることを想像していた。しかしここにある箱は少なかった。三十はないだろう。その分一つ一つが抱えなければならないほど大きい。
嫌な予感がした。木箱の腐食が進んでいるようだった。
石の下に埋められていたのだから、掘り出した時に箱のていを成していないものは処分してしまったのかも知れない。
師匠がその内の一つを手にとってライトをかざした。
それを見た瞬間、明らかに今までと違う鳥肌が立った。
ぞんざいな置かれ方をしていたのに、木箱は全面に墨書きの経文でびっしりと覆われていたからだ。
如是我聞一時佛在舍衞國祇樹給孤獨園與大比丘衆千二百五十人倶・・・
師匠がそれを読んでいる。やめてくれ。起きてしまう。そう思った。
ペンライトの微かな明かりの下で、師匠が嬉しそうな顔をして指に唾をつけ、箱の口の経文をこすり落とした。他に封印はない。
ゆっくりと蓋をあげた。俺は怖いというか心臓のあたりが冷たくなって、そっちを見られなかった。
「う」
というくぐもった音がして、思わず振り向くと師匠が箱を覗き込んだまま口をおさえていた。
俺は気がつくと出口へ駆け出していた。明かりがないので何度も転んだ。それでももう、そこに居たくなかった。
階段を這い登りわずかな月明かりの下に出ると、山門のあたりまで戻りそこでうずくまっていた。
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