葬祭

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どれくらい経っただろうか。師匠が傍らに立っていて青白い顔で 「帰ろう」 と言った。 結局次の日俺たちは1週間お世話になった家を辞した。またいらしてねとは言われなかった。もう来ない。来るわけがない。 帰りの電車でも俺は聞かなかった。木箱の中身のことを。この土地にいる間は聞いてはいけない、そんな気がした。 夏休みも終わりかけたある日に俺は奇形の人を立て続けに見た。そのことを師匠に話した折りに、奇形からの連想だろうか、そういえばあの木箱は・・・と口走ってしまった。 ああ、あれね。あっさり師匠はいった。 「木箱で埋められてたはずだからまずないだろう、と思ってたものが出てきたのには、さすがにキタよ」 胡坐をかいて眉間に皺をよせている。俺は心の準備が出来てなかったが、かまわず師匠は続けた。 「屍蝋化した嬰児がくずれかけたもの、それが中身。かつて埋められていたところを見たけど、泥地でもないしさらに木箱に入っていたものが屍蝋化してるとは思わなかった。もっとも屍蝋化していたのは26体のうち3体だったけど」 嬰児?俺は混乱した。グロテスクな答えだった。そのものではなく、話の筋がだ。死人の体から抜き出したもののはずだったから。
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