第1章

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私の元カレは会社の疲れとたやすく手に入らない現実に疲れて服毒自殺したのだ。 「彼がそんなに思い詰めているのなら別れ話なんて切り出さなきゃよかったです」 私は彼の自殺を聞いて涙ながらに答えた。 「ごめんなさい。本当にごめんなさい」 誰にでもなく何度も謝った。 自殺、そう断定された。紛れもなく、自己殺人である。 「…おかえり」 コーヒも冷めたころに八木は戻ってきた。まだ怒ってる。さっきほどではないが。 「なんて言ってきたの?」 「妹をつけ回すなと言ってきた。」 おぉ、なんと言う心優しき兄。とでもいっておけばそれらしく聞こえるかな。兄なんていたことがないからわからない。 「ありがと、」 「何かあったらすぐに言え。第一、付かれる前に俺に言っていれば手は回していた」 「わかってるけどさあ…」 「なんだ?」 「いや、なんでも」 その時、席を立った刑事と目が合った。私は会釈をした。刑事もまたそれに習った。 「…なんか、悪いことしちゃったかな」 「知らん」 八木は払い除けるように言葉を吐き、それから一呼吸おいて微笑んだ。 「お前は何も関わっていないだろ」 お兄さんは私を慰めるように言った。あくまで、お兄さん。役柄のお兄さん。 本来の八木であれば、私は無視されている。要件を出し渋ったさっきみたいに。 私には本当の兄どころか、家族すらいない。そんな私を拾って、八木は育ててくれた。できる限り八木には迷惑をかけたくない。 だから、一借りたら一返す。 「ところでお兄さん。今晩仕事じゃない?手伝ってあげようか?」 「そうだな。一緒に映画に行ってもらえると助かる」 「了解」 ターゲットは有名議員だったかな。最近金遣いが荒いって組織から目をつけられている。 「じゃあ、七時ぐらいでいい?」 「あぁ、」 そういえばさぁ、 「…まだ何か話があるのか?」 「え?…ううん。何もないよ」 八木は私より早く伝票を取って席を立った。 また顔色の悪い理由を聞けなかった。
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