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彼が亡くなってから数日後。
私は萌木色のシャツを着て、呼び出された喫茶店で待っていた。数分後、11時ぴったりに相手は喫茶店に入ってきた。カランコロンと古風なベルがなる。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「待ち合わせなんですが…」
「お兄さん!こっち!」
私が手を降ると、八木は店員に会釈してこちらに来る。
「ゴメンね。忙しいときに」
仕事スーツの八木に私は謝るが、八木は全く無視をする。
「要件」
一言口に出し、口を結ぶ。
元カレとは違う。この人はいつも言葉が少ない人だ。
私はわかっていながらも何か物足りない気分で今の状況を口にした。
「ちょっとヤバくてさぁ…」
「要件」
言葉が少ないと言うより無駄話が嫌いなのだ。おかげで八木の顔色が悪い理由を毎回聞きそびれる。
私は声を潜めた。
「…ヤれたんだけど、疑われちゃってんだよね」
「警察か?」
「うん」
「無視しろ」
「それが自殺で終わったはずなのに今もつけられてて…」
私は思わず口をつぐんだ。
八木の目が据わってる。怒ってる、めちゃくちゃ怒ってる。
「…窓際の席の男か」
「あっ、うん」
八木はお怒りのまま立ち上がると、床を踏み鳴らすようにその男に近づいていった。
「お兄さん!?」
無視しろって言ったのは誰だっけ!?
「すいません。お話、よろしいでしょうか」
聞き取れたのはそこだけだった。店内の喧騒とBGMに紛れて、あとはあの八木の怒り方が私が仕事をミスったのを叱るのと同じだから聞きたくなかった。
遠くからでも分かるよれたスーツ、中年刑事は何を思って私をつけていたのだろうか。もうすぐ定年だからこの事件を徹底的に調べたいと言うところかな。残念だが、フィクションのように真犯人は捕まったりしない。
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