六章 将軍様に忠誠誓い、今日も任務に励みます

26/43
505人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
 藤堂が踏み込み、愛希が数歩下がる。藤堂が押されれば、愛希は前に踏み込む。  ひらりひらりと息ぴったりの二人に、浪士は地団太を踏む。これ以上は、もう戦意が持たないだろう。  更に斎藤もあらかた敵を昏倒させ、屍累々といった光景になっていた。  しばらく応戦しながらそんな様子を冷めた目で眺めてい吉田は、不意に藤堂の間合いに一気に踏み込んだ。藤堂は刀を受け鍔競り合いの状況になった。そのとき。 「ねえ、君はいつまでそんな獣みたいな集団の中にいるの……」  背後の愛希にすら聞こえないほど小さな声で囁かれた言葉に、藤堂は目を見開いた。 「な、なんで」 顔がこわばったその一瞬の隙に、吉田は渾身の突きを繰り出した。とっさに避けようとしたが、背後の愛希に気付き、藤堂はクっと喉を鳴らした。 「愛希しゃがめ! 」  しかし愛希がその声に反応する前に、渾身の一突きが繰り出される。まずい、と思う間もなく、金属音と共に赤い鮮血が散った。 「平助! 」  しかし、藤堂は小さな息遣いをするとともに、吉田の刀を弾き飛ばした。吉田はへえ、と感心したように言うと、すぐさま飛びずさった。  愛希は正面の浪士たちを一気にのすと、すぐに藤堂の横から吉田と対峙した。 「この間の僕と同じとこ。……背中合わせはいいけど、実力が均衡してないんじゃない? 君だったら、もっといい相棒がいそうな気がするけどね」  首元を抑える藤堂に、吉田はフフッと笑う。 「……うるせえな。別にこれは俺が弱いだけだろ。そう言うなら今俺に止めさせばいい」  しかし、吉田はちらりと鋭い視線を送る愛希を見ると鼻で笑った。 「別に、僕が君に今止めを刺さないのはその子がいるからじゃない。別にその子なんか片手一本で倒せるし。ただ、手負いの獣を相手するには少し時間がないってだけ。おっと、そろそろだ」  最後の一人を斎藤が先頭不能にしたところで、吉田は素早く裏口に移動する。 「待て……」 「……さっき言ったこと。少しは天下について考えるのも、義務だと思うよ」  首から血を流しながら追おうとした藤堂に、吉田は真顔でそう言うと、一抹の風のように姿を消した。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!