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月曜日。
朝のオフィスは誰もいない。
「早く着きすぎちゃった。」
慣れない電車だと思って、少し早く出たせいなんだけど。
卓さんのマンションは都内の一等地にあるだけあって、格段に通勤が楽になってしまった。
席に着くと、うーんと背伸びをする。
土日は疲れた。
あの後、生真面目かつ優秀な五味さんが、テキパキと引越しを進めてくれた。
運び込むだけじゃなくて、その後の整理まで手伝ってくれたお陰で、日曜日午前中には全てが済んでしまったのだけど。
「はあ・・・。」
思わずため息が出る。
まさか午後になって、買い物に連れて行かれる羽目になるとは。
五味さんの決め台詞『私が社長に怒られますので。』に振り回されて、素敵なお洋服をたくさん買ってしまった。
しかも卓さんのカードで・・・。
「このままだとダメ人間になりそう・・・。」
おニューのスカートをつまむ。
「とっても可愛いけど・・・。」
大きなため息がまた出てしまった。
しばらくすると、ぽつりぽつりと出社してくる人が増えてくる。
それに紛れて、松尾さんもやってきた。
「おはよう。早いな。」
「おはようございます。」
「さて、今日あいつは来るかねえ。」
その言葉に、思わず正面の席を見る。
そこは新人の藤本君の席。
新人といっても、もう配属されて半年は経つのだけど。
「・・・来ないと思います。」
「俺もそう思う。」
松尾さんが、さっきの私より大きなため息を吐いた。
案の定、始業になっても藤本君は来ない。
バタバタと仕事に追われていると、細身のスーツに身を包んだ藤本君がやっと出社してきた。
「おはようございますー。」
『語尾を伸ばすな・・・。』
思わず心の中で突っ込む。
でも彼に構っていられる程、私も暇じゃない。
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