恋ぞつもりて

8/10
前へ
/162ページ
次へ
何歩進んだのだろうか。 唐突に終わりは訪れる。 瞼に感じていた眩しい光が、陰るのを感じる。 目をうっすらと開けと、そこには大きな影。 その影は、私を柔らかく包み込んだ。 「美夏。」 耳元で囁かれる声に、一瞬驚く。 だけど、影の正体が分かった瞬間、頭の中がじーんと痺れてきた。 熱いものが込み上げてきて、訳も分からずしがみつくと、それに応える様に背中に回された腕が強くなる。 「怪我は?」 返事の代わりに、左右に頭を振る。 「良かった。」 吐息が首元をくすぐる。 私を包む香り。 力強い腕。 優しい声。 その全てが、緊張していた私を溶かしていく。 「顔を見せて。」 誘う様な声に従って、ゆっくりと顔を上げる。 そこには漆黒の瞳。 「・・・卓さん。」 「もう、大丈夫。」 卓さんの目元が、優しく細められる。 『本当に大丈夫なんだ。』 ほっとした瞬間、体から力が抜けた。 くらっと傾く体を、卓さんががっちりと支えてくれる。 「ご、ごめんなさい。」 「いいえ。」 ちゅっと額に口づけられる。 久しぶりの感触。 何だか気恥ずかしくて顔を背けると、卓さんがふっと笑った。 それを合図にしたかの様に、2人の男性がゴンドラ内に入ってきた。卓さんと彼らの短い会話の後、私はゴンドラの外に出る様に誘導される。 そして凍りついた。 「!」 そこは気が遠くなる程高い、はしご車の頂上だった。 「す、す、卓さん!!」 「なんだい?」 「こ、これ!?」 「事情は後で。」 ぽんぽんと私の頭を撫でると、卓さんは涼しい顔で男性達に何かを言う。 すると、ギィっと嫌な音を立てながらはしごが降下し始めた。 ゴンドラ内に残ったさっきの男性達が、楽しそうに手を振るのが見える。 だけど、それ所じゃなかった。 高所恐怖症ではないけど、さすがにこれは怖すぎる・・・! 卓さんの腰にしがみつくと、『この方が落ち着くと思う。』と言って私をしゃがみこませてくれた。 「怖いかい?」 コクコクと頷くと、卓さんが苦笑する。 「他のことに意識を向けると楽になるよ。」 「む、無理。」 「例えば・・・。」 唐突に、卓さんが私を抱きしめる。 そのまま、唇が重なった。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1904人が本棚に入れています
本棚に追加