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「卓さん・・・!」
非難の声ごと、卓さんの唇に飲み込まれた。
しっとりとした舌が、優しく口内をまさぐる。
『こんな所でダメなのに・・・。』
分かっているのに、段々何も考えられなくなる。
大きな手が、私の耳に触れる。
ぞくりと背筋が震えた。
すっかり力が抜けた頃、儚い水音を立てて唇が離れる。
「続きは後で。」
囁かれた声に、一気に頬が熱を帯びる。
上目使いに見上げると、久々に間近で見た卓さんはどこか悪戯っぽく笑っていた。
「ほら、着くよ。」
確かに卓さんの背後には、電灯のライト部分が何個も見える。
地上が近いのは一目瞭然だった。
数秒後、ガタンと音がして降下が止まる。
卓さんは颯爽と立ち上がると、手を差し伸べる。
「お手をどうぞ。」
卓さんの手を取り、立ち上がる。
さっきまであんなに震えていたのに、普通に立つことができた。
むしろ違う心配でドキドキしてくる。
『さっきの、誰にも見られてないよね・・・。』
「見られてないよ。」
「!!」
びっくりする私を余所に、卓さんは私をエスコートしながら地上に降ろしてくれる。
梯子を降りると、想像していた以上の人達が迎えてくれた。
忙しなく働く人達を横目に、私は観覧車を見上げる。
さっきまで私がいたゴンドラ。あの中で誠一郎さんはどうしているのかと思うと、心がぎゅっと締め付けられた。
「他の男のことは考えなくてもいいよ。」
またまた心を読まれて、体がびくりと震える。
「誠一郎さんは捕まったりしない?大丈夫かな?」
その言葉を言ったことが間違えだった、と気づいた時には後の祭りだった。
卓さんの手がのびて、がっちりと肩を掴まれる。
「前から聞きたかったんだが、いつからファーストネームで呼び合う仲になったんだい?」
卓さんの笑みが、ものすごく怖い。
「さて、ホテルでゆっくり話そうか。」
怒った卓さんほど怖いものはない。
そんなことを思い出しながら、私は卓さんに言われるがままに観覧車を後にした。
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