恋ぞつもりて

9/10
前へ
/162ページ
次へ
「卓さん・・・!」 非難の声ごと、卓さんの唇に飲み込まれた。 しっとりとした舌が、優しく口内をまさぐる。 『こんな所でダメなのに・・・。』 分かっているのに、段々何も考えられなくなる。 大きな手が、私の耳に触れる。 ぞくりと背筋が震えた。 すっかり力が抜けた頃、儚い水音を立てて唇が離れる。 「続きは後で。」 囁かれた声に、一気に頬が熱を帯びる。 上目使いに見上げると、久々に間近で見た卓さんはどこか悪戯っぽく笑っていた。 「ほら、着くよ。」 確かに卓さんの背後には、電灯のライト部分が何個も見える。 地上が近いのは一目瞭然だった。 数秒後、ガタンと音がして降下が止まる。 卓さんは颯爽と立ち上がると、手を差し伸べる。 「お手をどうぞ。」 卓さんの手を取り、立ち上がる。 さっきまであんなに震えていたのに、普通に立つことができた。 むしろ違う心配でドキドキしてくる。 『さっきの、誰にも見られてないよね・・・。』 「見られてないよ。」 「!!」 びっくりする私を余所に、卓さんは私をエスコートしながら地上に降ろしてくれる。 梯子を降りると、想像していた以上の人達が迎えてくれた。 忙しなく働く人達を横目に、私は観覧車を見上げる。 さっきまで私がいたゴンドラ。あの中で誠一郎さんはどうしているのかと思うと、心がぎゅっと締め付けられた。 「他の男のことは考えなくてもいいよ。」 またまた心を読まれて、体がびくりと震える。 「誠一郎さんは捕まったりしない?大丈夫かな?」 その言葉を言ったことが間違えだった、と気づいた時には後の祭りだった。 卓さんの手がのびて、がっちりと肩を掴まれる。 「前から聞きたかったんだが、いつからファーストネームで呼び合う仲になったんだい?」 卓さんの笑みが、ものすごく怖い。 「さて、ホテルでゆっくり話そうか。」 怒った卓さんほど怖いものはない。 そんなことを思い出しながら、私は卓さんに言われるがままに観覧車を後にした。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1904人が本棚に入れています
本棚に追加