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黒塗りの車の前で、高藤と美夏ちゃんが話しているのが見える。
遠目に見た美夏ちゃんは、少し困った様な、悪く表現すれば引き攣った様な表情。そんな美夏ちゃんを助手席に乗せると、高藤が一瞬甘ったるい顔をした。
「何やってるんだか。」
空中から彼らを眺めながら、ボソリと呟く。
その声を聞きつけたのか、スーツ姿の男が俺を見た。
「Mr.SUGISAKI. What’s wrong?(杉崎さん、どうかしたのか?)」
「Nothing.(何でもない)」
男は『OK』と返答すると、作業に戻っていく。
美夏ちゃんと入れ違いに入ってきた男2人は、ゴンドラ内を撮影したり、俺に質問したりと忙しい。俺を逮捕しに来たにしては捕縛される訳でもないので、今の所俺も自由にさせてもらっていた。
そのまま窓辺に陣取って黒塗りの車を見ていると、スーツ姿の片割れが話しかけてきた。
「So, I have a memo for you from Mr.TAKATO.(そうだ、君宛てのメモを高藤さんから預かっているよ。)」
「は?」
男からメモを受け取る。
不審に思いながら広げると、そこには高藤らしい流暢な字が綴られている。
最後まで一気に読んで・・・、そして脱力した。
「マジかよ。」
メモには今回の件を”穏便”に済ませる為の指示が書いてある。
その指示に従わないと面倒くさいことになるのは分かっているが・・・、分かっているが胸糞悪いもんは悪い!
「あいつ・・・俺のことまで利用する気かよ・・・。根性悪い奴。」
黒塗りの車に向かって思いつく限りの罵詈雑言を浴びせるが、動き出した車はすぐに小さくなって見えなくなってしまった。
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