シンガポールの夜

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言っている意味が分からず、卓さんを見返す。 すると、長い指がトントンと最上さんの耳元を叩いた。 「これだよ。」 「これ?・・・あ!!」 最上さんのイヤリングは、先日盗まれたパールのイヤリングにそっくりだった。よく見ると、ネックレスも瓜二つに見える。 「美夏のものに似ているだろう?」 「はい!」 「私もそう思ったから最上さんに直接聞いたんだ。そうしたら最上さんは知り合いからプレゼントされた品だと教えてくれた。私は最上さんに現物を見せて欲しいと頼んだよ。」 卓さんが自嘲気味に苦笑する。 「そうしたら最上さんは自宅へ見に来てくれと言ってきたんだ。」 「わざわざ自宅に?」 「ああ。一度は断ったんだが、出張続きで時間がないと押し切られた。」 「・・・そう。」 「仕方なく家に行って実物を確認した。そうしたら間違いなく、私が美夏にプレゼントした物だと分かったんだよ。」 「よく分かったね。」 パールのネックレスなんて、私だったら違いが分からないだろう。 疑問が顔に出ていたのか、卓さんが私の手首に手を伸ばす。そして着けられていたパールのブレスレットの金具を見せてくれた。 「ここにMって彫ってあるだろう?」 「はい。」 「これは美夏のイニシャルを彫ってもらったんだよ。同じ物がネックレスにもイヤリングにも彫られているんだ。」 思わずブレスレットの金具をまじまじと見つめる。
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