シンガポールの夜

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「アクセサリー類が本物だと知った私は、最上さんに買い取りたいとお願いした。だが最上さんは渋り、逆にこの契約を持ちかけてきたんだ。」 机の上に、更に一枚の紙が置かれる。 そこにはこんなことが書いてあった。 -------- 高藤卓はフェリーク広告の5周年パーティーに最上理子をエスコートすること。それが完了後、最上理子は真珠のイヤリングとネックレスを高藤卓に譲渡する。 但し、この契約内容については一切の口外を禁ずる。口外した場合、その時点で契約は破棄とする。 -------- 「これを結んだの?」 「ああ、この条件じゃなければアクセサリーは返さないと言われた。」 「そんな・・・。」 「正直、この位の契約内容ならば問題は起きないだろうと思っていた。だからサインしたんだが・・・。大きな間違えだったね。」 卓さんは嘆息すると、私の目をじっと見つめる。 「最上さんがあそこまで行動してくるとは思っていなかったんだ。調査させたが、最上さん宅へ行った記事も、婚約の記事も、最上さんが仕組んだことだった。」 「えっ!?」 「最上さんは徹底していたよ。特に婚約の記事は、わざわざ私が出版社に手を回せない様に、私の携帯に通信妨害ウィルスを仕込んだ位だからね。」 「そこまでするなんて・・・。」 目の前の卓さんは僅かに姿勢を正す。 つられて私も背筋を伸ばすと、卓さんが真剣な表情のまま口を開いた。 「美夏はアクセサリーを盗まれたこと、本当に気にしていただろう。だからどうしても取り戻したいと思ったんだが・・・。」 卓さんが頭をゆっくりと下げる。 「結果的に美夏を苦しめてしまった。許して欲しい。」 下げられた頭は、微動だにしない。 私は慌てて卓さんの肩に手をやる。 「頭を上げて下さい!私も似たようなこと、してしまったんですから。」 私は今までの経緯をざっと説明する。もちろんパーティーに潜入する為に誠一郎さんを頼ったことも、誠一郎さんと交わした契約についてもきちんと説明した。
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